和田川総合開発と庄川用水

和田川総合開発と庄川用水

4月 22, 2023 歴史 by higashiyamami

庄川から取り水している農民は、庄川の全流量を農業用水として利用することは、祖先伝来何人にも侵されない伝承的な権利であり、庄川水利権の主体は農民にあると考えていた。県は、所有権・管理権を有しているから、一定の規準水量を越えた流量は、独自の立場で他目的に転用してよいと考えていた。  また電力会社は、県が認可さえすれば発電に利用でぎると考えていた。このように、庄川の水利について三者三様の考え方を持っていた。

昭和三十二年六月、庄川最上流の御母衣ダムが築造され始めると、流量増加を予測して、関西電力は三十五年十一月、合口堰堤からの分水で発電する雄神発電所建設を県へ申請した。県は発電後の放水を和田川へ引いて、富山新産都市建設のための工業用水と生活用水を供給し、射水地方の乾田化地区へも導水する和田川総合開発を計画した。

庄川用水連合の分水反対

昭和三十二年、庄川沿岸用水土地改良区連合(庄川用水連合)理事長は県に対して、「御母衣ダムが築造されて下流の流量が増加しても、庄川水系外に引水を目的とする流域の変更計画には同意できない」ことを申し入れ、電源開発・関西電力の二電力会社に対しては、「下流灌漑用水に不足が生じないよう、必要水景を放流する」ことを中し入れた。県も電力会社も庄川用水連合の要望を認め、三者協定を成立させ、御母衣ダムの建設に着手した。ところが、県が流量増加を予測して、  約五〇トン(毎秒)の水を和田川へ導水するという和田川総合開発計画を公表したため、にわかに庄川用水関係者を刺激した。

電力会社と県の主張

電力会社は、小牧堰堤上流に発電用高堰堤を次々に築造し、最上流にロックフィ ル御母衣ダムを完成して、有効貯水量は三億三、〇〇〇万トンとなり、渇水期補給量を毎秒二〇トソも増加できるようになったので、水の利用力が増大し、下流発電量は二割増強された。関西電力は、戦時中の国家総動員法による電力統制会社日本発送電より事業を継承しているので、右岸で二〇トンの水を使用して発電する権利は、中野発電所と同じ既得権があり、その水で発電所を建設するのは当然の権利であると考えていた。

富山県は、合口堰堤は県有財産であり、県が管理しているから、県の方針どおり庄川流量は処分できる。ただし、農業用水は合口した当時の水量を分水する責任があると考え、関西電力に雄神発電所建設を認め、発電後の放水を和田川に導水して、⑴県営庄東発電所を建設し、⑵射水地方の乾田化、放生津を改修しての富山新港周辺新産業地域の工業用水の確保を図り、⑶新産工業地域の発展に伴い急増する住民の生活用水を確保する、いわゆる和田川総合開発を計画したものであった。

庄川用水側の水利権主張

庄川用水連合は三十五年五月「 庄川の用水と発電関係」という印刷物を発行して、庄川水利権は農業用水が最優先することは、何人にも侵されない権益として伝承していると主張した。同年九月、合口用水完工二十周年記念式を挙げ、「 庄川用水合口堰堤」と題した銅額に「庄川天与の恩恵を受けるわれわれは永遠にこの緯業をたたえる」と刻して堰堤壁面に掲げ、合口堰堤の主体は、用水連合であることを一般に認識させることに努めた。

庄川用水合口堰堤

松    村    謙    三 謹題

庄川の各用水口取入口は、左岸に山見八ヶ・新用水・ニ万石・舟戸ロ・鷹栖ロ・若林口・新又ロ・千保柳瀬口、右岸に三合新・芹谷野・六ヶ・針山中田口の十二用水が開けていたが、その施設に年々多額の費用を要し、しかも取入堰の流失や早ばつの被害が甚しかったので、遠く藩政時代から合口による適正な配水を企てていた。大正のはじめ小牧、祖山の高堰堤築造計画が具体化したのに刺激され、合ロの機運が熟し期成同盟会が中心となり関係者あげて実現に努力した。ことに用水の落差を利用し発電を行なうことは当時として画期的な大事業であり、幸に国・県などの助成を得て昭和五年起工式をあげ、同十六年堰堤を完成し、その他関連施設を含む県営事業として七ヶ年の歳月と総工費三九〇余万円を投じ、灌漑面積一万二、〇〇〇haに及ぶ壮挙は全くなり、宿年の大願は成就された。

今や庄の天与の恩恵を受けるわれわれは永遠にこの位業を讃え共栄の道を歩みたい。完工二十周年に当り事業の概略を刻しこの銅碑を建てる。

昭和三十五年九月三日

庄川沿岸用水土地改良区連合

三十六年二月、庄川用水連合は、総会で用水量確保を強調した陳情書を県へ提出することを決議した。  同年五月総合開発を進めるために、県と関西電力は庄川水利について次の協定書をとり交わした。

協       定       書

富山県知事吉田実(以下  県」という)は、関西電力株式会社取締役社長芦原義重(以下「関電」という)の雄神発電所建設計画を承諾するに当り、関電は県の計画にかかる和田川総合開発事業に、次のとおり協力することを協定する

⑴雄神発電所の水の使用計画について庄川沿岸用水土地改良区連合(以下  改良区連合」という)から農業用水増量の要望があった場合は、 関電の中野発電所の既得水利権を侵さない限度において土地改良区連合と協議の上、その措置について雄神発電所竣工までに関電は県の承認を受けるものとする。 庄川左岸における土地改良区連合以外の新規取水については、雄神発電所新設と切離して関定の既得水利権を侵さない範囲において、別途協議する

⑵関電は県が将来必要とする射水平野乾田化事業の農業用水、新和田川計画の農業用水並びに高岡・新湊・射水地域の生活用水及び臨海工業地滞の工業用水等の所要水量、最終毎秒30㎥(ただし六月中旬から八月中旬までについてほ毎秒35㎥)について、上流小牧堰堤に到達する日日毎の流量の範囲内でこれを確保し、雄神発電所から放流する。ただし⑴による土地改良区連合の取水量増加がある場合においては、これを上記流量から減じたものの限度内に止めるものとする。なお前項についてはこれに必要となる逆調整池を県において建設することを前提とする

⑶県は和田川総合開発事業における逆調整池の建設に際して、関電と協議するものとし、これに関し発電部門が負担すべき費用についてはその二五%相当額を協力するものとする

上記協定の証として本書二通を作製し、それぞれ記名捺印し各自一通を保有するものとする

昭和三十六年五月三十一日                                          富    山    県    知    事     吉    田  実

                        関西電力株式会社取締役社長    芦   原    義    重

県と関西電力が交わした庄川水利についての協定を見た用水側は、事前協議をしたいとの申し入れを無視し、慣行水利権が軽視されているのは遣憾であるとして、「 庄川合口堰堤利用による 右岸水力発電計画に関する要望書」を、県並びに関西電力へ提出した。

庄川合ロダム利用による右岸水力発電計画に関する要望書

庄川の水利発電について、今年三年二月十五日関係用水土地改良区理事長連署の上陳情書を提出し、計画されている新しい水利開発事業については、すべて本連合と事前に協議し、その同意の上で進められるよう強く要望致したのであります。爾来ニヶ月を経た今日、右陳情に対し何等の打合せ、協議も無く、且憂慮しておりました増加水量の新規開発設計にお ける配分、即ち関西電力雄神水力発電所計画許可の件について、我々の信じて疑わざる固有の慣行水利権も軽視される如き感を受けるのは、誠に遺憾であります。

たまたま本連合区域は、庄川上流に発電のためダム築造され、自然流入土がなくなった事により耕土改善の要に迫られ、近く流水客士事業も施行いたさんとしている折でもあり、ここにその原因を理解いただき、加えて前回陳情の主旨を貫徹するため、現在県議会が知事より諮問されている関西電力会社の申請許可に関し、別冊要望書にもとづき、本連合と完全なる了解のもとに認可着工せしめるよう御配慮下されたく、重ねて陳情申し上げます。

昭和三十六年五月二十三日

庄川沿岸用水土地改良区連合理事長    砂  土  居  行  雄

庄川合ロダム利用による雄神発電所建設計画に関し県並びに関西電力(株)に対する要望書

1、施設の利用について限と関西電力の契約について用水より要望

庄川の用水合口堰堤及びその付帯施設は、用水の取入堰として築造したものであるから、今般更に雄神発電所へ引水のため同施設を利用せらるるにあたっては、県は用水側に代り、将来用水の取入れに支障を来たさざるよう電力会社と念入の契約を取り極め願いたい。

庄川用水合口事業工作物使用に関する契約書、同上工作物使用許可書、合ロ堰堤及び用水路利用発電命令出等を、従前契約及び許可書に基づいて更改しておかれたい。 (昭和三十九年四月までとなっている従前の契約をこの際更改する)

2、施設利用に対する問題

合口堰堤築造に際しては、地元は相当の負担をし、これが維持管理のため庄川沿岸用水土地改良区連合を結成し、毎年多額の費用を負担しているのであるから、この堰堤を利用して発電する雄神発電所は相当の使用料を支払うべきである。庄川連合へ毎年相当の使用料を支払うか、或いは特別会員として会費を納むべきである。

3、用水側の取水量について

この取入堰に於ては、農業用水の取入が優先するのであるから、先ずその必要量を確保し、然る後発電に利用する方針をとられたい。しかし用水側は必要以上の水量を取入れるものでないから大体の基準を定めることに同意する。その基準とは現在の実績に更に将来土地改良の結果必要とする水量である。

⑴従来の各用水時期別取入量は現在の実状に合わないのであるから、これを撤回する

⑵現在の取入量を基礎にし、それに各用水の事情に応じ増加水量を加えて必要水量とする

4、庄川沿岸土地改良による増加水量の補給

現在庄川連合用水に加入しておらない流域に、近く土地改良が進んで補給水が必要となるので、その取入を小牧発電所又は合口堰堤より取入れることを県及び関電とも了解してその要望に応じられたい。

⑴南砺山麗地帯

⑵砺波北部地帯

⑶その他の地帯

5、右岸幹線水路の変更

右岸に雄神発電所を実施せられる場合は、右岸の幹線水路を発電水路と合同することについて、地元用水側の要望を聞き入れ設計を立てられたい。

6、汚泥灌漑事業に対する関電の寄付方要望

庄川より土砂が流れず、ために耕土は益々浅くなり、地味は痩せて年々減収を続けているので、県営にて汚泥灌漑事業が実施されることになった。これは庄川に発電のため堰堤が築かれた関係によるものであるから、この被害に対する補償金額を関電より庄川流域地帯土地改良区へ寄付せられたいとの要望がある。この際これを聴き入れられたい。

分水問題円満解決

昭和三十九年二月、富山県は「県営庄川水系和田川総合開発事業計画」を公表した。その要旨は、御母衣ダム完成によって洪水が貯溜調節され、  渇水量毎秒10.7㎥が37.2㎥となって庄川の水利流量が著しく良好となる。関西電力は、庄川合口堰堤右岸から取水し、庄川町庄地内で雄神発電所( 14,000kw)を新設する。こから放水する一部を和田川に導水して、砺波市宮森新地内に県営庄東第一発電所(23,000kw)を新設し、和田川に放水する。下流の増山地区には多目的ダムを新設して、⑴県営第二発電所を新設し⑵発電放水を逆調整する⑶洪水調節⑷富山新産業地域の工業用水宮山新産業地域の工業用水⑸太閤山に造成される住宅団地の上水道用水⑹射水湿田地帯の乾田化農業補給用水にする、などである。この問題について再三交渉の結果、ようやく次のような成案がまとまった。

⑴農業用水の最優先権を認める協定水量は、昭和三十五年から三十八年までの最大取水量とする

⑵協力費(使用料支弁)については、県は合口堰堤の主体は用水連合であることを認め、新たに水利権を取得する立場をとって協力費一億円を支出する。 関西電力も農業用水取入堰にほかならないことを認めた

⑶管理権は県が保持する。多目的・総合水利ダムの性格が強いので、農業用水優先は保証するが、用水連合への管理権移管は拒否する

「水門操作・施設の保全維持・改造改築などの実際管理は、 県・関西電カ・連合用水の 三者委員会で協議決定する」 など、富山県・用水連合・関西電力の三者が完全に合意に達したので、四十年七月十三日知事室で仮協定書に調印、七月二十八日、正式調印を行った。調印後県知事は「和田川総合開発事業は、 富山新産都市建設の柱なので急いで着工したい」 とあいさつし、用水連合理事長は、「農業用水の優先が認められ、農民の水不足の不安は解消された。先輩の残してくれた偉業が県の総合開発や関西電力の発電事業に役立つことは喜ばしい」 と語り、関西電力常務は、「待ち望んでいた雄神発電所建設が着工できることになってうれしい」と 謝辞を述べ、協議成立を祝福した。

出典:庄川町史

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